言いたくても言えない職場、そこに待ち受ける結果とは、新たな価値を生み出すことは元より、問題が発生しても報告せずに隠して事態が悪化してしまう、そんな職場だろう。著者が初め医療現場で起きている実態を分析していくと分かったことが、優秀だと思える職場の方が事故報告件数が多いという結果だった。その矛盾を解く原因として考えられたのが心理的安全性だった。心理的安全性とは言うべきことを言える性質である。心理的安全性があれば言っても安心だということが過去の経験から感じているため、安心して組織で働く同僚や上司に言うことができる。
今はどんな仕事でも同僚と相談しながら仕事を進めていくことが多いのではないだろうか。それなのに心理的安全性が無いならば上司の顔色を伺うための仕事になってしまう。本来人が持つコミュニケーションを活用した知的な価値創造の機会を十分生かすためにも、心理的安全性は基礎的だが重要な性質であると、この本を読んで感じる。とてもお薦めの書籍である。
本の情報
タイトル | 恐れのない組織 |
著者 | エイミー・C・エドモンドソン |
訳者 | 野津智子 |
出版社 | 英治出版社 |
発行年 | 2021/2/10 |
定価 | \2200(税抜) |
ページ数 | 317ページ |
要約 & ポイント
第一部(心理的安全性のパワー)
- 心理的安全性とは、率直に発言したり懸念や疑問やアイデアを話したりすることによる対人関係のリスクを人々が安心して取れる環境のことである。(第一章から引用)
- 人と人が話すときには、言ったらどうなるかといったリスクを考えている。例えば、否定的なことを言ったら評価を下げられる等。リスクがあると感じたら、言うべきことも言わなくなってしまう。
- 心理的安全性があると、従業員もエンゲージする。極度の緊張がある医療現場などは特にエンゲージメントが重要で、心理的安全性が無いと、安全性の問題や離職を引き起こす。
第二部(職場の心理的安全性)
- フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンの排ガス基準の不正問題や、ウェルズ・ファーゴ銀行の異常な販売ノルマや、ノキアのスマホOSの乗り遅れの事例から、問題の原因が心理的安全性であることが分かる。(もちろん、それだけではないのかもしれないが。)
- 医師が権威者であるため暗黙的に絶対正しいと思い込んで、医師が処方した薬量を疑いもせずに患者に投与する事例(権威を過信)や、東日本大震災では原発事故が起こる数年前から津波による浸水被害を予兆して指摘していたにも関わらず研究者が言っていることという理由で重要視されず事故が起きた事例(沈黙の危険)。
- 率直に意見を言える制度を作ったピクサーは、どんな作品も初めは駄作であると。しかし、率直な感想で修正され作られた作品はヒット作になった。ブリッジウォーターのレイ・ダリオは自らだけでなく従業員全員に率直さを求めた。”批判的な意見がある時にそれを胸に秘めている権利は誰にも無い”、つまり、従業員は批判があるなら言う責任があるということだ。誰もが欠点もありミスをするものだが、一番悪いのはそこから学ばないことだ。
- 普段から経営陣の指示を受けて仕事をしているだけの組織にいきなり心理的安全性を求めても無理な話である。まずは、経営陣が促してあげるところから始めなければならない。そして従業員のことをよく聞き、実現してあげることで少しずつ安全性が醸成されていく。リーダが知らない・分からないと率直になれば、従業員の心を強く引き付ける。
第三部(フィアレスな組織をつくる)
- 「土台を作る」仕事の難しさや状況の複雑さを明らかにして、率直な意見を言うことが大切だという認識を作り出す。失敗をしてもよいということを当たり前にする。ただし、失敗にも種類があって、既知のプロセスやルールから逸脱しての失敗は愚かな失敗であり、新たな挑戦の結果、不確実なことが起こり失敗することは賢い失敗である。賢い失敗は褒められるべきものである。
- 「参加を求める」人が会話に参加しやすくするために、リーダーは状況的謙虚さを持ち、参加者の知恵が必要だと思ってもらうことが大事である。リーダーがなんでも知っていると思われると参加者は意見を言わなくなるからである。そして意見を引き出すための問いや仕組みをつくっていくことで、参加者の意見を引き出す。
- 「生産的に対応する」リーダーは意見を言った人に対してまず感謝を示す。意見を言わない・失敗を回避したままでは、次の学習のプロセスに進まない。失敗して率直に意見を言い合い、学習することで新たなプロセスやイノベーションが作り出される。失敗してそのままにするのではなくて、学習して組織のものにしていくことが重要なのである。
感想
目標が曖昧で状況が複雑化している現代では、リーダーが全ての正解を知っていることなどありえない。現場を支える人たちが率直な意見を言い合える組織が、現代に求められる組織だと思った。
逆に心理的安全性が無い組織では、率直な意見を言えないのだから、成功するはずのプロジェクトであっても失敗する可能性が大いに高まることを意味する。心理的安全性だけでは、組織におけるプロジェクトが成功するわけではないが、心理的安全性が無いとプロジェクトが失敗する。
心理的安全性は組織の土台とも言うべき、組織に参加している皆で創り出す風土のようなもの。リーダーや一人の人間が良いと思っているだけでは不十分なので、一人一人が心理的安全性を持つ組織を作っていく気持ちが大事だと考えさせられた。
おすすめ
【おすすめ度】 ★★★★★
【こういうときに】自分自身が組織において本音を言えない、言ったら組織人事で罰せられる感じがする。会社で会議をするけど、皆が本音を言わずに、回りくどい表現を使い時間がかかっている。健全で生産的な組織や風土を作りたいと考えている方にお勧めします。
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